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名古屋高等裁判所 昭和48年(ネ)579号 判決

控訴人

桜井一彦

右訴訟代理人

伊藤宏行

外一名

被控訴人

川出俊雄

右訴訟代理人

杉山秀男

主文

原判決ならびに原審手形判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

第一本件手形に被控訴人主張のような各記載があることは当事者間に争いがない。

第二そこで、控訴人の当審で提出された抗弁について判断する。

〈証拠〉によれば、次の事実が認められ、〈る。〉

1  本件手形は、訴外高田孝(以下単に高田という)が控訴人に依頼して振出してもらつた融通手形であつて、この手形の振出人名義は控訴人と記載されてはいるが、控訴人と高田との間の約束では、本件手形の支払期日までに高田がその支払資金を提供して控訴人には金銭上の負担をかけないことになつていた。

2  被控訴人は、高田から依頼されて、右1の事情を了知の上、本件手形の第二裏書欄に裏書した(この裏書は被控訴人の署名か記名かははつきりしないが、たとえ記名であつても、それは被控訴人の適法な委託によるものである)。この裏書は、将来本件手形を割引く者に対して被控訴人が裏書人としての責任を負うとともに、控訴人に対しては高田の前記資金提供義務を保証する意思を表示するものであつた(従つて、被控訴人主張の裏書偽造の抗弁は事実に反し理由がない)。

3  高田は、右のように、本件手形に被控訴人の裏書を得た後で、本件手形を被控訴人より受取り、更にこれを自己の取引先である住友シヤツター軽金属こと訴外粟野久雄(以下単に粟野という)に交付して、右2における被控訴人と全く同趣旨の保証の意味で、第三裏書欄に粟野に裏書人としての記名押印をしてもらつた。

4  そして高田は、更に、本件手形を街の金融業者である訴外福山弘夫(以下単に福山という)の下に持参して交付し、福山から本件手形の割引代金を受領した。

5  しかるに福山は、本件手形の支払期日前に裏書人である被控訴人に支払を請求したので、被控訴人は、昭和四七年八月一八日頃手形金額を福山に支払つて、本件手形を入手し、自己を更に裏書人として記載の上、支払期日後である昭和四七年九月一九日に、所持人として控訴人に対し手形金を請求すべく、訴外株式会社十六銀行に取立委任して支払場所で支払のための呈示をなさしめたが、資金不足として支払を拒絶された(控訴人が高田にあて本件手形を振出し、高田から被控訴人に、被控訴人から粟野に、粟野から福山に、更に福山から被控訴人に順次裏書譲渡されたこと、被控訴人が本件手形を支払場所に呈示したことは、当事者間に争いがない)。

以上の事実によれば、被控訴人が福山に本件手形金を支払期日前に支払つて本件手形を取得したのは、被控訴人が控訴人に対して負担していた資金提供についての保証債務の履行としてなされたものであることが明らかであるから、被控訴人は控訴人に対し本件手形金を請求する権利は存在しないものというべきである。

以上の次第で、被控訴人の本訴請求は、控訴人主張の相殺の抗弁を用いるまでもなく失当であるから、これを棄却すべく、これと結論を異にする原判決ならびに原審手形判決はいずれもこれを取消すこととし、訴訟費用については、民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文の通り判決する。

(植村秀三 西川豊長 寺本栄一)

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